堺市議会 > 2021-02-04 >
令和 3年 2月 4日市民人権委員会(研修会)-02月04日-01号

  • "委員会"(/)
ツイート シェア
  1. 堺市議会 2021-02-04
    令和 3年 2月 4日市民人権委員会(研修会)-02月04日-01号


    取得元: 堺市議会公式サイト
    最終取得日: 2021-06-06
    令和 3年 2月 4日市民人権委員会(研修会)-02月04日-01号令和 3年 2月 4日市民人権委員会(研修会)                  令和3年2月4日                研  修  会  記  録                    講  師                関西大学社会安全学部准教授                  近 藤 誠 司 氏               堺    市    議    会
    〇午前10時開会 ○木畑 委員長  おはようございます。定刻となりましたので、ただいまから市民人権委員会研修会を開会いたします。  本日はお忙しいところ、また、緊急事態宣言中にもかかわりませず、市民人権委員会研修会、御出席いただきまして、本当にありがとうございます。  なお、本日はオンラインによる形式で研修会を開催させていただきます。ふだんと異なるところもあるかと思いますが、研修会の円滑な進行に皆さんの御協力をよろしくお願いいたします。  さて、御存じのとおり、新型コロナウイルスによる感染が拡大し、いまだ終息の見込みは立たず、発出されている緊急事態宣言は先日、3月7日まで延長されました。このような中、近年、地球温暖化に伴う気候変動により頻発・激甚化している風水害や、大規模な被害が懸念される南海トラフ巨大地震上町断層帯地震など、自然災害への備えが一層難しくなっており、SDGs未来都市に選定された本市としても、誰一人取り残さない社会の実現をめざし、新型コロナウイルスなどの感染症蔓延時の自然災害発生に備える必要があります。  本委員会としましては、感染症自然災害複合災害に備える防災・減災に対する理解を深め、見識をより高めていくために、このたび関西大学社会安全学部准教授近藤誠司先生に御講演をお願いしましたところ、公私御多忙にもかかわらず、快くお引受けをいただきました。心からお礼を申し上げます。ありがとうございます。  皆様方におかれましては、どうか最後まで御清聴いただき、この研修会が有意義なものとなりますようお願いいたしまして、簡単ではございますが開会の挨拶とさせていただきます。  続きまして、本日の研修会の講師であります近藤誠司先生を御紹介させていただきます。  先生は1994年4月にNHKに入局後、ディレクターとして災害報道に従事され、NHKスペシャルMEGAQUAKE科学技術映像祭内閣総理大臣賞を受賞されました。NHK退局後は関西大学社会安全学部の助教を経て、2015年4月からは関西大学社会安全学部准教授として御活躍されておられます。また、人と防災未来センターリサーチフェローや地方自治体における会議等の委員を歴任され、本市の防災対策におきましても様々な分野で御助言をいただいております。  本日は、インクルーシブ防災重要性~福祉コロナSDGs~、と題し御講演をいただきます。それでは近藤先生、よろしくお願いいたします     「インクルーシブ防災重要性~福祉コロナSDGs~」                           講師  関西大学社会安全学部                              准教授 近 藤 誠 司  よろしくお願いします。今から画面を共有させていただきながらお話をしたいと思います。先ほど伺いましたら、少し音声の状況が聞き取りづらいときもあるようですけれども、なるべくゆっくりしゃべります。どうぞよろしくお願いします。  今日は市民人権委員会研修会ということで、防災福祉の関わり、そして防災というのが人権を考える上で、とても大切な糸口、切り口なんだということを共有していただきたいと思います。そして、一番今日大事にしたいキーワードは、インクルーシブ防災という概念になります。このことについては、後ほど説明を加えていきたいと思います。  少しだけ自己紹介しますと、私が今所属している関西大学社会安全学部は2010年に開学しました。昨年度、10周年ということで記念のイベントなども計画していましたが、今コロナ禍でありますので、静かにお祝いをしているところであります。  社会の安全を総合的に学べる学部、世界でも珍しい学部ですけれども、この中で私は災害情報防災教育の分野の指導・研究に当たっています。学生とともに様々な地域に赴いて、一緒に防災取組を行いながら課題を発見したり、もしくは課題の解決に向けた取組にチャレンジしているところです。このような、笑顔あふれる写真も、今ではキャンパス内では撮ることができなくて、基本的にはリモート学習という形で進めています。  学生たちと共有しているキーワードが、まさにインクルーシブ防災です。インクルーシブとは、包み込む、包摂するという言葉ですけれども、もう少し丁寧に言うと、包み込み合う、包摂し合う、ともにお互いの命を支え合うという意味が含まれています。平たく言いますと、みんなの命のことを考える、これがインクルーシブ防災の要になります。  では、このみんなということについて、我々はどこまで思いをはせることができているでしょうか。2年前の北関東を襲った台風では、御覧のとおり、大きな被害が出ました。今映っているのが福島県須賀川市、浸水したまちの様子を上空から見た映像になります。  こちらの台風19号災害被災地にも、学生とともに、すぐに支援に駆けつけました。今御覧いただいている2階建てのアパート、1階部分でお年寄りが1人、浸水した水にのまれて命を落とした、そういう現場になります。この付近には、防災行政無線もありましたし、そして多くの方は先に避難をしていました。しかし、ここに住んでいたお年寄りは命を落としてしまった。よく見ると、アパートには外階段がついていて、2階に上がれば、助かったはずの命でした。しかし、孤立していた御高齢の方がサポートを受けられずに、1人で命を落としてしまったということになります。  こうしたことは、今般、繰り返されている水害で繰り返し起きてしまっています。2018年に起きた西日本豪雨では、亡くなった方の多くが、大半が高齢者でした。情報がしっかりと届かずに、そして逃げ遅れてしまって、水にのまれてしまう。こうした弱い立場にいる方が、今、社会のあちこちにいます。西日本豪雨では、障害がある方々、そうした方もすぐに逃げることができずに大変困窮しました。障害者と呼ばれる方々の中にも、様々な障害があり、障害の程度なども様々です。例えば、聴覚障害の方々、防災無線サイレンやアナウンスなどが聞き取れなかったという方も大勢いらっしゃいます。視覚障害者の方は、たとえサイレンが聞き取れたとしても、避難所に一緒に行ってくれる方がいなければ、たどり着けない。そのまま避難を諦めてしまう人が多くて、岡山県、広島県、愛媛県で避難所にたどり着いたのは6名しかいなかったという調査結果などもあります。  また、外国人の方には日本語で届くエリアメールなどが読み取れずに、その場にとどまり、避難せずに土砂に埋もれてしまうなどの事例もありました。こうした外国人技能実習生の例が新聞で報道されていますが、これは昨年9月の台風10号でも、宮崎県などで同じような事例が起きてしまいました。  課題は共通しています。防災取組は、なるほど進んできてはいますけれども、福祉の部分のリンク、連携がまだ行き届いていない。みんなの命を守りたいのだけれども、みんなの中に、どのような人がいて、どのように困っているのか、具体的な支援が行き届いていないという現状があります。これを包み込んでいこうとするのがインクルーシブ防災という概念になります。  なお現在、世界全体でSDGs、Sustainable Development Goalsということで、例えば、貧困の対策、健康や人権や平等、平和などの取組が進められていますけれども、このSDGs取組の根底にあるのがインクルーシブ・アンド・ダイバーシティ、多様な人々をいかに包み込むかという概念になります。様々な取組を行おうとしても、例えば世界全体では年間6,000万人を超える方が自然災害被害に遭っています。幾らすばらしい平和の取組をしたり、貧困対策や健康に関わる取組をしても、災害の脅威に対する取組を押さえておかなければ、根底から突き崩されてしまう。この点を我々はしっかり直視しておかなければなりません。災害は、弱い立場の人をより弱い立場に落とし込んでしまうことがある。ふだん困っている人のほうが災害に対して弱いという格差が広がっていくという作用が見受けられます。ですので、防災取組でしっかり下支えして、セーフティネットを張ってSDGsを取り組んでいく必要があります。  さて、今日は皆さん防災取組重要性防災から社会を見たときにどんな見方ができるのかについて、前半ではお伝えして、後半でどのような取組、手だてがあるのかについて共有していきたいと思います。  前半の話は少し課題の提示が多いので、重たい話になります。後半の話で、なるべく前向きな思いを共有していきたいと思います。  それでは、まず最初のチャプターですけれども、防災に対する考え方前提を4つお話ししたいと思います。  まず、これは言わずもがなかもしれませんが、災害が多発する時代に入って、常識を更新しなければならなくなったという点を押さえておきます。  特に、御年配の方の中には、これまで大丈夫だったので、これからも大丈夫だろうっていう思い込みにとらわれてしまうことがあるので、注意が必要です。気象が極端化するというふうに表現します。暑いときには、とても暑い。雨が降るときには、とてもたくさん雨が降る。異常気象によって、特にこの極端化の作用が我々の社会災害を起こしています。例えば、夏の暑さについて、皆さんはどのようなイメージを持っているでしょうか。最高気温が記録された場所のランキング、順位を並べてみると、その地名はこのようになります。2019年のデータまでで並べますと、1位は埼玉県、そして岐阜県や新潟、山形などの地名が並ぶことになります。いずれも、真夏の暑さは40度を超えている。こうした中で体調を崩して、命を落とす方が出るような事態が続いているわけです。ヒートアイランド現象フェーン現象がとても厳しい状況にあることが見て取れる。ところで、沖縄県那覇市では、観測史上最高の気温は何度だったかというと、35.6度。沖縄県のほうがよっぽど過ごしやすい夏を迎えているかもしれない。人の命を奪うかもしれない暑さが都市部においても起きていることを、まず御年配の方に御理解していただく必要があります。その上で、熱中症で亡くなる人よりも低体温症で命を落としている人のほうが多いことも認識しておく必要があります。この豊かな社会、日本という国においても、自宅で寒さに耐え切れずに命を落とす人が毎年のように1,000人単位で犠牲になっています。背景に見られるのは、孤立と貧困。特にエアコンや暖房器具を使うことを控えて、経済的負担が出ることを恐れて、暖房を使わずに、体温が奪われて命を落とす人が出ています。  災害が多発して、しかも一つ一つの規模が大きくなっている。例えば、あるシミュレーションでは、今後台風の数は、日本列島に襲来する台風の数は減っていくかもしれないという予想があります。数は減るけれども、上陸するときには、規模が大きなものが来る。地球の温暖化で海水温が上昇し、さらに気温が上昇しているので、台風が生まれにくくなるというメカニズムもあるけれども、それを乗り越える形でより大きな台風日本列島に襲来する。そうなると、これまでは大丈夫だったのに、まさかと思うような、そうした災害が起きてしまう。ふだんだったら氾濫しないような川があふれたり、規模の小さな山間部、山あい、谷筋で大きな被害が出る。こちらの写真は、西日本豪雨の際に、高校生が命を落とした現場、重機が入っている辺りに住宅がありました。そこで高校生が命を落としてしまった。最後のメッセージは、電話で、やばいという言葉を残して、そのまま行方不明になりました。遺体がなかなか見当たらないので、同級生が一緒に捜索活動をした。きっとどこかにいるはずだと、捜しましたけれども、なかなか見当たらない。最終的に遺体が見つかった現場は玄関です。土砂に埋もれて、玄関に高校3年生のお子さんが命を落としていた。走って逃げれば助かったかもしれないけれども、ぎりぎりまで家にとどまっていたので、若い高校生の足でも逃げ切ることはできなかった。ふだん、亡くなった高校生はすぐ近くにあるおじいさんの家にたくさん雨が降ると自主避難していたそうです。しかし、この日に限って、その自主避難をしていなかった。こちらの写真には、そのおじいちゃんの御自宅も映っているんですけれども、ここでお孫さんを失ったおじいちゃんに話を伺うことができました。70にもなって孫を失うなんて、こんなつらいことが待っているとは思ってもみなかった。とても悔やんでいました。悔やんでも悔やみ切れない。わずかな油断が命を奪ってしまう、後悔の念、無念の念を抱いている方がたくさんいます。  この現場では、1年前に砂防ダムが造られたことによって、多くの方がもう避難しなくてもいいのではないかと油断していたそうです。しかし、自然の驚異、自然の猛威というのは、そうしたことを簡単に乗り越えてきてしまう。ですので、より多くの人が警戒をしなければなりません。警戒レベルを少しでも高めておく必要があります。自然の猛威のレベルが増している中で、社会状況は揺れ動いています。  前提2つ目、今、この社会で何が起きているか、大きく2つの潮流があります。  1つは、事故災害化、もう一つは災害事故化。順番に説明します。  まず、事故災害化。4年前になりますが、新潟県で大火災が起きました。ラーメン屋の御主人のうっかりしたミスで出火して、そしてまちの区画が延焼して燃え落ちてしまいました。火災、不注意による火災ですので、民事的責任と刑事的な責任、これらが問われるわけです。そして、賠償について、本来であれば保険などで個人的に償って終わりになるわけです。しかし、焼け出された人たちの生活は、それでは立ち行きません。そこでどうしたかといえば、被災者生活再建支援法の枠組みを適用しました。自然災害によって住宅を奪われた方に支援金を出す制度がありますけれども、その法律を適用した。ラーメン屋の御主人の失火による火災ですので、災害ではないけれども、災害とみなして、ある意味、痛み分けをしよう、社会で焼け出された人を支えようとした。これが事故災害化トレンドです。とても優しい社会づくりをしている。手厚いサポートをしていることになります。  この事故災害化というトレンドは世界的に見ても非常に福祉的な政策として捉えられますけれども、一方で、災害事故化という逆向きトレンドがあります。  一例を示しますと、東日本大震災で、多くの児童が津波にのまれて命を落とした宮城県石巻市大川小学校の例が思い浮かぶと思います。  この津波災害では、児童が命を落とした後で、訴訟で争われました。学校や教育委員会責任。なぜ、児童運動場にとどめてしまったのか。なぜ早く避難させなかったのかという責任が問われました。  そして、御覧のスライドの写真、新聞記事の写真にもありますとおり、学校先生を断罪したぞ、勝訴したぞ、遺族と学校が対立するような構図が連綿と続くことになりました。  大川小学校の訴訟の裏で、野蒜小学校でも訴訟が起きていました。こちらは児童を早く学校から帰宅させたことによって、帰宅途中に命を落とした児童の親御さんが訴訟を起こした。  2つの訴訟は、いずれも学校側が敗訴しています。理由は同じく、津波災害被害が予見できていたであろうということです。  被害想定などは公表されて、学校避難マニュアルなども整備されて、避難訓練なども行っているので、児童の命を守る責任がある。責任が追及されたという事例。  実は、同じようにして、東日本大震災のときには、例えば自動車学校が、例えば銀行が、商店などで避難誘導に当たれなかった、そうして組織や団体が裁判に訴えられています。  そして今後も、このトレンドは続いていく。この社会では、災害に対する備えの重要性を常に共有しているはずなので、その備えを怠っていた組織や団体は許せない、そういうようなトレンドがある。昔であれば、災害の後はみんなで痛み分け、支え合っていこうとしていましたが、今は災害をまるで事故のように、誰かの責任がきっとあるに違いないと思い合って、追及を続ける厳しい社会になっています。互いに余裕がない、不寛容な社会も起きました。少し踏み込み過ぎかもしれない、責任を追及することで課題を解決することはとても大事です。大事ですけれども、しかし、そうした取り組み方が揺るぎのないものになって、息苦しくなっている。そうした点は押さえておく必要があると思います。  前提3つ目災害情報に関わる大きなトレンドです。  知識と意識の在り方にギャップが生まれている、ここが既に問題視されています。例えば、こちらのスライド画面皆さんニュースで御覧になったことがあるでしょう。大雨が降ると河川に流れ込む雨水の量を予測して、洪水する危険性を表示する。これをニュースなどでもリアルタイムに報道するようになってきました。こうしたきめ細かい情報が出ることは、ある意味で有益です。とても役に立つかもしれない。けれども、中小の河川の洪水、氾濫の予測はとても難しいので、この画面の中には描き込まれていません。そこまでの精度を保つことはできません。堺市にも関わりのある土砂災害警戒情報、これまでは5キロメートル四方で、もしくは1キロメートル四方で情報が出されていました。そうしますと、5キロメートル四方ですと、大阪府堺市では恐らく5つぐらいのメッシュで埋まってしまうことになります。それぐらい大ざっぱにしか警報を出すことができないわけですけれども、我々はそれを手がかりにして対応しなければならない。行政職員皆さんも相当苦慮されていると思いますし、自治体の首長さんも難しい判断を迫られることになる。多くの情報に振り回されてしまう。残念ながら、多くの警報はよかれと思って、早めに、強めに出しますので、空振りになってしまう。そうすると、だんだん情報を信頼しなくなる。知識が増えても、意識が下がってしまうようなギャップ、ずれがある。避難に関する情報を一覧すると、これだけの情報が多くのニュースで飛び交っていることになります。これらを整理するために、現在は警戒レベルを数字で発表するような形になっています。  今日は、これら一つ一つ説明したりはしませんが、こちらに映したのは、一番右側の例が現在までの数字の出し方。例えば、避難勧告避難指示レベル4ということで情報警戒の呼びかけを行ってきました。これからは画面の左側に情報の出し方が変わります。避難勧告避難指示は、どっちが危険な状況を指しているのか分からない人が多いので、避難勧告という言葉、用語をやめる方向になっています。また、レベル3、これまでは避難準備と、情報として呼びかけていましたが、これからは高齢者等避難高齢者などに避難を呼びかける情報に集約することになりました。避難準備と言ってしまうと、まだ準備段階なので移動しなくてもよいと勘違いしてしまう人がいるからです。  ところで、既に皆さんは、この話を聞いて、既にもう情報が多過ぎる、覚え切れない、そんなふうに思った方もいるのではないでしょうか。一般のおじいちゃんやおばあちゃん、もしくは、お子さんレベルで考えれば、とてもついていけない。そうすると情報に疲れてしまう、もしくは情報を待つ、もう最後は誰かが決めてくれればいいから、私はもう知らんよ、そういう人を生み出しているような、丁寧にすればするほど、逆に防災について背を向けてしまう人を生み出して、この点が課題として見られています。  最後、前提4つ目、多くの防災取組の場面で、これまでは自助が大事だという掛け声、スローガンが大事にされてきました。これはもちろん大事ではあるんですけれども、しかし、このメッセージが届かない人々もいることを我々は共有しておかなければなりません。例えば、残念ながら、毎年のように災害で命を落とす人がいるけれども、そうした被害者犠牲者自助努力が足りなかったと決めつけてよいのかどうか。また、どんなに頑張っても、自助努力ができない方々もいることを、孤立している人、生活が困窮している人がいることを見過ごした上で自助が大事だと言い募っていてよいのかどうか。  さらに、人々の気持ちを奮い立たせる上でも、自助努力を促すというやり方が本当によいのかどうかについても、今、議論・検討がなされています。  あるまちでは、御年配の方を集めて、小さな防災講演会を行いました。おじいちゃん、おばあちゃん方に、今、瞬間に特別警報が出たら、あなたは避難所に逃げますかというふうに尋ねます。そうしますと、はいと言って手を挙げる方はごくわずかしかいません。  この設問の仕方を少しだけ変えてみる。  お孫さんが遊びに来ています。特別警報が出ました。避難所に逃げますか。そうすると、おじいちゃん、おばあちゃんたちは、ほぼ全員が、それだったらひとまず避難所に逃げておこうかな、そんなふうに答えてくれました。  防災自助が大事だと言うけれど、実際に今の行動を決めているのは意外にも共助の思い、大事な人を守らないといけないな、我が身も大事なんだけれども、子どもとか、お父さん、お母さんとか、おじいちゃん、おばあちゃんとか、近所の方、友達、大事な人を守りたいということがモチベーションになって、心のスイッチを押して、一緒に動いてくれている。こうした自然な心持ちにも目を向けて、現在では共助で人を支える、共助がまず前提にあって、そして今、やせ細っている自助の力をみんなで高めよう、こうした働きかけ方に、今変わりつつあります。  これこそが、まさに福祉の分野で、もしくは人権の分野で我々が考えを鍛え上げてきた、そうしたことになります。インクルーシブ防災という考え方、みんなの命を守るという考え方は、今お話しした前提の4つの課題をいかに乗り越えるかというときに、1つの糸口を与えてくれる、そうした理念だと考えます。  ここまでで、第1章、現時点の防災をめぐる社会潮流、時論について御説明しました。  音声の状況はいかがでしょうか。 ○木畑 委員長  はい、先生、ゆっくりしゃべっていただいているので大丈夫です。よろしくお願いします。 ◎近藤 講師  はい、分かりました。  それでは、引き続き御説明を続けたいと思います。  続いては少し、コロナ課題にも寄せながら、もう少し課題の部分も共有していきたいと思います。  みんなの問題、みんなで頑張ろうという、またこの掛け声が、掛け声倒れになっている場面も多くあるかもしれない。特に、コロナの問題が起きて、社会で渦巻いているのは、差別、排除、分断の問題があります。コロナの問題が起きた当初は、そして現在も続いているかもしれませんが、医療従事者福祉の仕事に当たっている方を差別するような動きが残念ながら、あちこちでありました。  そして、考え方の違う人を排除したり、コロナのために避難している人を受け入れないように、そういう社会動き方も、あちこち見受けられました。  この問題については、世界全体では、Who are we問題、Who are we problemというふうに呼ばれています。私たちって一体誰のことを指すのか、私たちというのを、主義主張が似ている人たちだけ指すと、それ以外の人は差別する、排除する、無視するということになりかねません。さきのアメリカの大統領は、このWho are we problemに対しては、一定のアメリカ人だけをアメリカ人とみなしている、それ以外の人たちはアメリカ人ではないという考え方社会をコントロールしようとしていた。本当にそうしたやり方で多くの人を支えることができるのだろうか。世界も日本も注目していたわけです。  この問題を考えるときに大事なのは、みんなという言葉を抽象的に振りかざすのではなくて、個別具体的な事例に当てて考えることです。コロナ禍において困っている方はたくさんいます。そして、その困り方が多様であることに我々は目を向ける必要があります。そしてコロナ禍において災害が起きれば、もっと困るであろうということを想像力を持って直視する必要があります。  こちらの新聞記事は、聴覚障害者の方がコロナ禍において大変苦慮されているということを調べた、その調査結果について記した新聞記事になります。こちらの調査を私が担当しました。滋賀県の草津市で障害者手帳をお持ちの聴覚障害者の皆さん全員にアンケート調査を行っています。  少し内容をひもといて課題を共有したいと思います。例えば、聴覚障害者の皆さんと言ったときに、どのような方を思い浮かべるとよいでしょうか。草津市の調査では、回答した人の7割が60代以上、6割以上が70代以上でした。これだけ多くの高齢者の方がいらっしゃる。聴覚障害状況について尋ねた質問では、先天的に、生まれながらに聴覚障害のある方が3割程度、後天的に、後から聴力を失ったり、障害があるようになった方が7割程度でした。高齢の方が多いことや、後天性の方が多いこと、これらを我々は踏まえておく必要があります。  障害者皆さんも高齢化が進んでいる。そして、お年を召してから聴力を失ったり、難聴になる方がいる。サポートの仕方が変わるわけです。このグラフを見るとその状況がさらによく分かると思います。グラフの左から2番目の固まり、ふだんのコミュニケーションで手話を使って話をしたり、話を聞いたり、やり取りしている人、意外に少ないことが分かります。聴覚障害者の手帳を持っているにもかかわらず、手話を使えないというのは、つまり高齢者になって聴覚障害になったので、手話を覚える余裕がない方もいるということです。したがって、何とか大きな声を出して、発声、発話によるコミュニケーションを取ろうとする。そうすると、コロナ禍ではとても嫌がられるわけです。もしくは、口話、口の形を読み取りながら、何をしゃべっているかを察知する、これもマスクをしていると全く判断できない。とても困る方がいるわけですね。ですので、透明のマスクというものが、あちこち福祉団体などでも作られたりもしましたし、口元が透明になって、なるべく曇らないマスクは、アメリカでも、インドネシアでも、世界中の国で透明のマスクをつくろうという、そういう動きが現れて取組が進んでいるところです。  聴覚障害があることで、どんな嫌な思いをしたのか、嫌な思いをしたと答えた方が全体の3割程度、やはり口元が読み取れない、口話ができない。そして、このようなオンラインでやり取りすることも難しいと感じている人が多いようです。字幕をリアルタイムでスーパーインポーズすることができないと、なかなかオンラインシステムで仕事ができない。そして、やり取りができないと新しい言葉が、PCR検査とか、ロックダウンとかですが、高齢者聴覚障害者の方は新しい言葉、概念が次々とニュースに出てくると、とてもついていけない。そして情報と知識と意識のギャップが生まれる。次から次へと情報を与えるがゆえに、コロナに関するニュースも、もう見たくないと、そういうふうに思う方がいるそうです。  左上の円グラフで、嫌な思いをしたことがない、特にないと答えた方の中に、もう何も期待していないので、嫌な思いをしたとも思わないという方も含まれていました。  聴覚障害者の皆さんも、防災には関心を持ってくださっています。草津市の場合には、7割の人が関心がありますと答えてくれました。  御自身で特別な備えをしている方も多くいらっしゃいました。特に、補聴器の予備電池を準備しておいたり、補聴器の予備器を準備している方もいました。そして、耳が全く聞こえない方は、コミュニケーションを取るための手帳とか、筆記用具などを準備している方もいました。  そして、重要なのが、下のほうにありますが、近所付き合い、民生委員さんや町内会長さんに自分のことを知っておいてもらう、そうしたふだんからのコミュニケーションを図ろうとしている人もいました。  そして、問題はこうしたことがなかなかできない方もいる、孤立している人もいるということに目を向けていかなければならないと思います。  こっちも説明しておきましょう。  聴覚障害者の方が一般の方に知っておいてほしいこととして上げたこと、例えば、私は聴覚障害者ですということを示すワッペン、マークなどがありますけれども、そのヘルプマークなどを知っておいてほしい、耳のマークを知っておいてほしい。それ以外に、例えば、避難所に手話通訳者を置くことが難しかったとして、避難所のテレビは字幕放送に切り替えておいてほしいなど、細かなサポート、いろんな声が上がります。中には、機材、AIを使った筆談機というものが開発されていますので、そうしたものをレンタルしてほしいという声などもありました。  避難所などのアナウンスメントとか、館内放送、場内放送が聞こえないので、やはり文字でしっかり表示してほしいなどの声もありました。  そして、やはり障害者の方がサポートを得られる場所、これをしっかり確保してほしいという声は強くありました。  その1つから、行政の施策としても進められている福祉避難所の確保になるかと思います。福祉避難所については、国のガイドラインでいきますと、高齢者障害者、妊産婦、乳幼児や病気をお持ちの方をしっかり支える避難所、家族も一緒に入ることもできるということまでが規定されています。ただし、福祉避難所があふれ出してしまうといけないので、建前としては、一般の避難所にまず避難していただき、そこで重要度が高い方のみ、スクリーニングして福祉避難所に行っていただくという、こうしたことが考えられていました。しかし、例えば、視覚障害者の方は一般の避難所に行くことさえも困難なのに、その後に二次避難として福祉避難所に行けるだろうか。福祉避難所に正規のルートで行こうとすると、既に地域の皆さんが押し寄せて、中に入れない、そんなことがあちこちで起きている。  熊本地震などでも、福祉避難所の近くに住んでいる方が福祉避難所に押し寄せてしまったがゆえに、その方々を一度追い出して、福祉避難所を開き直すという大変難しいオペレーションがありました。  西日本豪雨などでは、気を回したヘルパーさんなどが一般の避難所を経由せずに福祉避難所に誘導した事例なども報告されています。多くの障害者皆さんは、福祉避難所に行ってもしっかりしたサポートが得られないのではないか、諦めの声も出始めています。  滋賀県草津市の場合には、どこに避難しますかと尋ねた問い、複数回答可、たくさん丸をつけてもいいですよという質問の回答として、ひとまず指定避難所に行くという方が多くて、福祉避難所に行くという方はごくわずかしかいませんでした。福祉避難所についての周知が進めば進むほど、行っても無駄かもしれない、そのような思いを募らせる人が多く、結局、自分の家で過ごす、家族の家で過ごす、こうした選択をしようと考えている人が多くいることが見えてきています。  避難を諦めさせてしまうと、冒頭で見ていただいた福島県須賀川市の高齢者のような事例、孤立して、1人命を落としてしまう事例を増やしてしまうかもしれません。  そこで、地域社会の中で、避難ができる場所、スペース、空間をいかに増やしていくか、ここが社会的な課題となっています。そして、コロナ禍ですので、分散避難を心がけなければならない。一般の避難所でさえも、混雑しないように、ゆったりと過ごせるようにしなければならない。その分、避難先を我々はたくさん確保していく必要があります。  昨年の熊本などを襲った台風の際には、宿泊施設をうまく利用した方々がたくさん見受けられました。あのタイミングでは、Go Toキャンペーンでホテルの宿泊費が割引されたことも手伝って、早めに宿泊施設を選んだ方が多い、そういう傾向もありました。この早めにという部分がとても大事で、早期に動き出せば選択肢がたくさん生まれるので、標高の高い場所に行くとか、少し離れているけれども、友人・知人の家に行くとか、そうしたやり方、やり過ごし方が生まれるのではないかと思います。  福祉関係者同士で、例えば、行政の境界を越えてサポートし合うような、そういう広域避難の仕組みも必要になってくるかもしれません。  実際に、熊本地震の際は余震が続いたので、全く心休まる時間がないので、熊本県から福岡県まで移動して避難した、そうした障害者の方もいらっしゃいました。  そうした広域避難の受入れ、もしくは新たなる避難スペースをどう生み出せばいいのか。これは、どの地域も今大変苦慮している問題です。  例えば、新潟県などでは、トレーラーハウスをうまく活用できないか。市民からの動きが始まっています。こちらではクラウドファンディングで寄附金を募ってトレーラーハウスを確保しておく、そんな取組になっています。トレーラーハウスを避難所、もしくは仮設住宅に使うというのは実はあまり知られていませんが、阪神・淡路大震災のときでさえもありました。東日本大震災被災地でも事例があります。こうしたなるべく過ごしやすい、そして個々のケア、サポートができる空間を生み出す工夫やアイデアを地域ごとに生み出していけると思います。公民館や児童館や集会所など、例えばマンションごとに持っている集会所なども、うまく手厚くサポートできる空間に変えられないか、そうしたアイデアなどが、今あちこちから出ています。  コロナ禍に寄せた話まで進みました。1番目、2番目、終了しまして、最後の、ここから少しずつ、さらに前向きな話を加えていきたいと思います。  どうやって頑張っていくか、踏ん張っていくか、なかなか特効薬になるものというのはないんですけども、しかし、少しずつ取組を進めていかなければ、ゼロはゼロのままになってしまう。それどころか、少子高齢社会の中で防災力はほっておくと、どんどん切り崩されてしまう、取り崩されてしまうような状況にもあります。  熊本地震の写真を出しましたけれども、避難所に行きますと、このように生活に関わる情報が壁に掲示されています。おじいちゃんやおばあちゃん、腰を曲げながらじっと眺めている。実は、地震の後に家から逃げ出してきたので、老眼鏡すらない。そうすると、こうした方々は無料で配られている新聞も、もう読まない。掲示されているものもうまく読み取れない。病院は開いているのか、どうやったら行けるのか知りたいのだけれども、隣では若者がスマートフォンで検索しているにもかかわらず、一方、逆のサイドでは、高齢者情報が手に入らなくて困っている。熊本地震の際には、福祉避難所がオープンしていることを知らずに、車の中で長時間過ごして命を落とした難病患者さんもいました。情報はいっぱいあるにもかかわらず、本当にその情報が欲しい人に届いていない場合がある。震災関連死のほうが、震災で直接亡くなる方よりも多いような事態が今増えています。こうした部分、人と人との結びつきを、いかにもう一度しっかりしたものにするのか問われている。  避難所で車中泊で過ごす人、これは仕方がないけれども、車と車を遮断している壁を、心の壁をどのように取り払うのか、多くの人が情報を共有し合って、一緒に気遣い合うようにしていくには、どうすればいいか、これがインクルーシブ防災課題の1つになっています。みんなの問題になる。そして、お互いさまで、いずれはあなたも高齢者になり、そして弱者になり得るんだということをいかにイメージできるか。一人一人の事情、実情にいかに添うことができるか。  私のキャンパスがある大阪府高槻市では、コミュニティで様々な障害者の団体の方にも集まっていただいて、交流会を行い、情報を持ち寄り、避難所を開設している訓練を重ねています。例えば視覚障害聴覚障害、また人工透析をしている患者さんたちです。避難所に行ってみると、例えば、車椅子の方はアクセスできるだろうか。一番大きな入り口には階段がある、ここにはコンパネを置いてスロープにすることが決まりました。右側の車椅子用のスロープ、電動車椅子では通ることができない、広げよう、実際にやってみなければ分かりません。  準備されていた仮設用のトイレ、知的障害のある方が、このトイレで用を足すことはやっぱり無理だ。そもそも健常の方でも、御高齢の方であれば無理だ。そこで、マンホールトイレの設置工事を行い、大きなゆったりとしたトイレを設けました。  避難所の中で連絡をする。ハンドマイクを使ったり、トランジスタメガホンを使う。やっぱり音が反響して、よく聞こえません。聴覚障害の方はもちろん無理ですし、健常の方でも、マイクが向いている方向の裏側にいる方には届かない。文字で掲示する取組が始まりました。最初は自治会の役員さんがホワイトボードに書いて回っていた。途中から地元の中学生がその役割を担うことになると、多くの方がとても喜びました。やっぱり若い方が参加してくれるとうれしいなと、同じ情報でも、誰が一緒に伝えるかによって伝わり方が違うことも分かりました。
     さらに、ホワイトボードに文字を書くと、夜読み取ることができない方が多いので、アンプルボードという、バックライトが光って夜でも文字が読み取れるようなボードも準備されています。  避難所の受付に様々な事情を抱えた方が来る。最初は、聴覚障害者用に、視覚障害者用に、知的障害者用にと窓口を分けていましたが、切りがない。であれば、どんなことでも相談に乗って、付き添う、そういうゆとりのある住民を受付に置いてみてはどうかというアイデアが生まれました。私のゼミ生の中からよろず相談員を置いてはどうですかというアイデアが生まれて、現在はなんでも相談員という形で取組を進めていらっしゃいます。  炊き出しに何を食べるか、こちらの地域ではカレーライスが定番になっていますが、カレーライスの味つけは、辛過ぎると年配の方には食べづらい。ですので、子どもでもお年寄りでも食べられるマイルドなカレーの味に決まりました。こうしたことを一緒に取り組むことが何よりも大切だと思います。いろんな立場の方の声を聞いて、重ね合わせて、よりよいものにしたり、工夫、知恵を凝らす、もちろん、カレーライスについては、この先に食物アレルギーの方に対してはどう対応するのかという問題が待っているわけです。  インクルーシブ防災において、みんなとは誰かを考えることが大事、Who are we、私たちの中にどんな人がいるのかを具体的にイメージすることが大事。そうすれば、きっと力になって、結局は、みんなのためになる。個別具体に考えると、みんなの福祉的なサポートが豊かになる、そういう循環があります。  あとは、実践を重ねていく、地域ごとにチャレンジしてみるといいと思います。  東日本大震災でも取組を続けたことで、奏功した事例があります。岩手県野田村という場所、保育所、このスライドには保育所の園舎があった場所が映っています。津波で建物は押し流されてしまいました。私が駆けつけた発災10日後には、水飲み場しか見当たりませんでした。こちらには、あの日、あの時、ゼロ歳児を含む児童が81人もいた。彼ら、彼女らはどうなったかというと、実は全員無事でした。少し読み取りづらいかもしれませんが、画面に地図を表示しています。津波は画面の右から浸入しました。画面の中央に野田村の保育所があります。①番と書かれた場所。保育所は児童福祉法の定めで月1回避難訓練をすることになっている。日本の組織や団体の中では最も訓練をしていると言えるかもしれません。ふだんはこの地図の中に描き込まれている赤い線をたどって①番から②番、そして②番からは赤い破線で描かれている場所、遠回りする形で高台にある中学校避難していました。しかし、ふだんこのように訓練していると、どうもこれは遠回りだ、②番の場所にある個人のお宅の庭を突っ切ってしまえば、早く標高も稼げる。この個人のお宅に許可を得て、災害が起きた場合には、許可なく通らせてくださいねと相談してありました。この野田村保育所では、日々の散歩も早足散歩という形で、避難訓練になるような、そういう練習までしていました。  実際に地震が起きた、強く長く揺れます。1分、2分、3分も揺れる。保育園の先生方は頭の中が真っ白になったと証言しています。でも、いつも訓練しているので、訓練どおりに逃げればいい。①番の保育所から赤い線のとおり、そして②番の個人の方の家を通って、③番、坂道を上がったところで、海のほうを見ると、既に津波が到達していたと。松林をなぎ倒している。そこで、もっと高くめざそう、中学校に行き、1階、2階、3階と、校舎の高い部分まで逃げて、命が助かることができました。  先生方の思いは、何としても幼い命を守り切りたい、諦めるわけにはいかないという思いだったそうです。逆に、自分だけのことであれば、どこかで諦めていたかもしれない。岩手県野田村の事例は、このように訓練していたことが奏功した、ある意味で偶然のように聞こえたかもしれません。  実は、もう一つ大きな奇跡的な偶然があって、あの日、あのとき、東日本大震災が起きたあの時刻に、ちょうどいつもどおりの早足散歩訓練をしようとしていた、訓練をしようと思って、子どもたちを昼寝から目覚めさせようとしていると地震が起きた。そして、いつもどおりに逃げていった。こうなると、私は偶然ではなくて、必然的に助かったのではないかと思います。月1回の訓練も無駄にせずに、具体的にリアルに取り組んでいたからこそ、全員命が助かった。子どもたちの命を助けることができたんです。守りたい、誰かの命を守りたいという、そうした強い思いを育てること、これが防災の分野で今求められていること。逆に言うと、諦めさせてはいけないと思います。励まし合って、少しでも防災力が高められることをまず共有していきたいと思います。  そうした中で、学校教育の現場においても、防災をぜひ進めてほしい、進め方にはやはり工夫が必要だと思います。イソップ童話の物語に例えるならば、北風と太陽というお話がありますけれども、現在の防災の分野では北風を吹かす、そうしたやり方がまだ多いかもしれません。災害は怖いよ、怖いから備えないと死ぬよ、だから自助努力しなさい。しかし、これでは子どもたちはなかなか元気が出ません。立ち向かえなくて、どうせ無駄なんじゃない、無理なんじゃないのって、そんなふうに思い始める子もいる。ぜひ、そうした子ども、もしくはお年寄りなども、今弱い立場にいる方も、太陽のように包み込んでほしい。  神戸市の取組を少し紹介したいと思います。神戸市長田区真陽小学校区では、阪神・淡路大震災でも被害が大きかった場所ですけれども、南海トラフ大地震が起きると、今度は津波の被害を受けるかもしれない。校区の8割が浸水してしまうという想定が出されています。堺市よりも後に津波は到達する。地震発生から1時間半ほどたってから津波が校区に浸入するという予想です。  子どもたちに以前、防災のイメージについて尋ねたことがあります。言葉とか、イラストとか、何でもいいので、防災のイメージを教えてちょうだい、そんなふうにアンケートしたところ、このような絵が出てきました。津波、土砂崩れ、火事、地震など、言葉が並んでいますけれども、人々が逃げ惑っている、家が燃えている。こうしたイラストには、さらに、人が死ぬとか、全滅するとか、そうした悲観な言葉ばかりが並んでいました。  こちらの絵は、津波が浸入してきている絵が左側、そして右側にはビルが燃えている。津波は火種を運んできて、津波火災を起こすという、そうした授業を受けたそうですけれども、そのときには、水平避難しても駄目、垂直避難しても駄目、こんなふうに学んでしまったようです。ですので、全滅するという、そういうイメージを持ってしまった。それでは防災の力は湧いてきません。  子どもたちと前向きなプロジェクトを始めてみました。2014年から校内放送を使って、毎週月曜日に防災の話をする。児童と大学生が一緒に原稿を作る。どんなふうにやっているか、少し御覧いただきたいと思います。   (動画 鑑賞)  校内放送の事例を見ていただきましたが、今女の子が読んでいた原稿がこちらになります。  クイズになっていて、選択肢の3つ目先生の指示に従って、北のほうに逃げましょうというのが正解になっていました。  堺市であれば、もちろん、海から離れるというのが東のほうへ向かって逃げましょうというエリアがほとんどかもしれません。  また、真陽地区でも、高台というものがないので、高台避難という言葉を覚える意味も、北のほうに逃げるという、この地域ならではの情報児童と学ぶ、共有したほうが力になる、そして、防災訓練で行っているとおりに、慌てずに避難すれば、みんなが助かるんだ、やればできるんだということを意識づけしていこうとしています。  校内放送で毎週月曜日に取り組むと、年間およそ30回ぐらい。1回は10分程度ですけれども、積み上げていくと、実はとてもたくさんの情報に触れることができます。今年度で7年度目を迎えていて、実は来週、通算200回放送しますけれども、既に1年生のときから6年生、卒業するまで放送を聞き続けてくれている児童もいます。中には、子どもたちのアイデアとして、はやりのユーチューバーに扮して校内放送をしたいという児童も出てきて、100円ショップで購入できる防災グッズを紹介してもらって、学校で大人気になったこともあります。  さて、この放送の取組、100回目の記念では、最新の非常食を食べ比べてリポートするという内容でした。大変楽しい取組でしたが、このときに、放送委員の児童の中に1人、この非常食を食べられない子がいました。児童たちも、このときに学ぶことになりましたが、食物アレルギーの児童が放送委員に含まれていたとなれば、災害時に食物アレルギーの人が困らないような取組はどこまで進んでいるのか、子どもたちでも気になります。第101回目の放送はアレルギーフリーのビスケット、クッキーですね、販売されていることを全校児童に伝える内容になりました。  子どもたちの教育効果を調べてみると、諦めない気持ちとか、助け合えば助かる人数が増えるんだと、そうした大きな気概が学び取れている。こうしたことを学び合うことが教育の現場でも、もちろん福祉やまちづくりの現場でも求められていると思います。  イソップ童話の北風と太陽、北風でビュービュー風を吹かせて脅しているだけでは、旅人は服を脱がない、言うことは聞かない。けれども、温かく照らしてあげると、旅人は服を脱ぐことができた。これだけでは、我々が何を与えてあげるかという一方的な話になってしまいます。そうではなくて、主人公、旅人ではなくて、旅人は主人公、あなたも防災の担い手になれるということを伝える必要があります。子どもでもアイデアは出せる。障害のある人こそ、何をどう変えればいいか、アイデアを持っているはず。そうして、仲間にしていく、仲間になってもらう、みんなが太陽になれるというのが、福祉の領域の重要なポイント、もしくは人権の考えの重要なポイント。そして防災取組も、みんなが担い手にならなければならないし、みんなが担い手になれるということを意識づけることが重要だと考えます。  では、最後の具体的なエピソードとして、こちらは火災予防になりますけれども、住民みんなが防火意識を高めて、防火の主人公になろうとしている取組を紹介したいと思います。  場所は京丹波町というところで、町営のケーブルテレビを使って火の用心のキャンペーンを毎日行っています。そのときに流しているコマーシャルビデオ、60秒ほどですけれども、御覧いただきたいと思います。   (動画 鑑賞)  もう1本、ありますので、ちょっと御覧いただきたいと思います。実に様々な方が登場するということに注目していただけるといいかと思います。   (動画 鑑賞)  御覧いただいた手作りのコマーシャルフィルムを1日6回、1週間、なので42回放送して、そして次のグループにバトンしていくという形で、既に5年間取り組んでいまして、人口1万4,000人の町で、既に2,000人がリレーをしました。こうして取り組んでいると、今、2本目に御覧いただいたビデオの中に、知的障害の方が映っていましたが、作業所でふだんお仕事をされている方がテレビに出たい、一緒に拍子木を鳴らしたいというふうに立候補してくださいまして、じゃあ、ぜひお願いしますというふうに運びました。すると、町民さんから、町の中に知的障害者の作業所があることを初めて知りましたという、そういう反響がありました。みんなで取り組むときに、どんなみんながいるのかを知らなければ、結局取りこぼしてしまうことになるし、逆に、どんなみんながいると、新しいコミュニケーションが生まれる、新しいアイデアが生まれる可能性が膨らみます。そして、一人一人が何かができる、何かを担える、主人公になれるということをぜひ重要なポイントとしてお示ししたいと思います。  ちなみに、この町では、連続8か月間、火災が1件も起きないという、この町としても記録を樹立しまして、その後、ぼやが起きてしまったんですが、現在も記録を更新するためにみんなで取り組んでいます。となると、連続8か月間、火災が起きなかったというのは、うれしい情報ですね、何も起きなかったといううれしい情報をてこにして、そしてみんなの励みにして、また頑張ろう。我々はふだんバッドニュースしか共有してない。あれもできない、これもできない、課題がある、不足がある、人が死んだ、そうすると、どんどん気持ちが沈んでいく、子どもたちもどんどん背を向けてしまう。ですので、そればかりではなくて、北風ばかりを吹かすのではなくて、太陽のように、包み込んで、そして最終的に包み合えるような関係が生まれてきてもいい、ポジティブなスパイラル、前向きな循環が生まれるといいと思います。  それでは、最後にスライドになりますけれども、十分、繰り返しお伝えしたので、1枚のスライドにまとめましたが、インクルーシブ防災考え方こそ、私は人権考え方と同じ根を持つ考え方だと思います。みんながひとしく大事、みんなの命を守り切ろうというのが防災の理念です。これはアメリカのほうのキャッチフレーズですけども、You are not aloneというフレーズがありますけれども、あなたは独りぼっちではありませんよという掛け声ですが、私は意図的に読み替えていて、私たちは独りぼっちではない、私たちは一人一人つながり合って、この社会で生きているということをしっかり意識づけていくことが大きな力のもとになると、そのように考えています。  それでは、長時間一方的に話してしまいましたけれども、私からの話題提供は以上にさせていただきます。御清聴ありがとうございました。(拍手) ○木畑 委員長  先生、本当にどうもありがとうございます。  実は、堺市議会の市民人権委員会人権行政と、もちろん危機管理と、そして消防行政、そして区役所行政ということで、どんぴしゃのお話を、私たちの日頃課題設定していることにどんぴしゃのお話をしていただけたなと、本当に大変、しかも楽しく聞かせていただきました。ありがとうございました。  それでは、本日御講演いただきました内容について御質問がございましたら、挙手をお願いいたします。  よろしいですか。  当局の皆さんもよろしいですか、何か。   (「なし」と呼ぶ者あり) ○木畑 委員長  では、今この場では質問出ないようですので、もしまた何かありましたら、先生のほうにメールなりで聞かせていただくこともあるかもしれませんけども、その際は、どうぞまたよろしくお願いをいたします。ありがとうございました。  では、今日は御質問はないということで、この辺で質問の時間ということを終わらせていただきます。ありがとうございます。  それでは、これをもちまして、市民人権委員会研修を閉会いたしますので、副委員長のほうから、閉会の御挨拶のほうをお願いいたします。 ○田代 副委員長  閉会に当たりまして、一言御礼を申し上げます。  近藤誠司先生におかれましては、長時間に及びまして貴重な御講演をいただきまして、誠にありがとうございました。  我々一同、今回、本日拝聴させていただきましたみんなの命を考える、このインクルーシブ防災重要性を本当に、この内容、具体的で、非常に分かりやすく教えていただきまして、ありがとうございます。  今後は、この御講演の内容を、今後の委員会活動へ十分に生かしまして、本市における防災・減災対策に係る取組について、より一層議論を深め、市政のさらなる発展に努めていく所存でございます。  また、御出席の皆様方には最後まで御聴講いただきましたことを厚く御礼を申し上げ、閉会の御挨拶とさせていただきます。ありがとうございました。 ○木畑 委員長  ありがとうございました。  それでは、以上で本日の市民人権委員会研修会を閉会とさせていただきます。  先生、本当にありがとうございました。(拍手) 〇午前11時35分閉会...